小説 夏の空 2夏の風は暑さを吹き飛ばせてくれるもの、いいえ、連れてくるもの・・・。汗をかく事は人の体の代謝・・・。夏の空2 六十で区切りをつけたとは言え日常の生活には変化があまりなかった。だが、一日の時間の早さはまるでつるべ落としのように過ぎていた。歳をとると時の流れが速くなる事を実感した。 歳をとったら読もうと一万冊の蔵書を書架に並べていた。その本の背表紙には難しい表題が並ぶものだった。手に取るが読む気がしなかった。もっぱらPCのチャットに入りコーナーを作りそこで友だちをつくり色々の議題で話し合った。ホームページ、ブログを何個も作り昔の作品をそこに載せた。思いを自由に書き込んだ。 そのころはまだ財団倉敷市文化振興財団の演劇部門の企画委員をしていたので一月に一回会議に参加していた。話は合わなかったが言いたい事は言った。それは実現する事はなかった。まるで文化の考え方が異なっていたからだった。中央の出し物を持ってきたいと言う人達に取っては、市民もとで創り上げるあたらしい出し物と言うのは仕事が増えることで嫌がった。 県の文化から岡山の演劇の振興と言う目的で会合を持ちたいと言う要請があり出席を求められた。何人かが集まり岡山県下の演劇事情が話されそれに対してどう発展させるかの議論になった。 今までの経緯から行政の文化に対しての無知を知っているので、 行政は一銭も支援する事はない、が、やると言うのなら練習場の設置とその運営を彼らに任せることを提言した。 どだい、芸術を行政の名のもとに支援を受けると管理されることになる事を彼らは知っていなかった。 せめて稽古場の無料開放により基礎を作る事の必要性を説いたのだった。また、この会議がしかるべき国民文化祭岡山の準備である事をみな知っていた。 この会合の後、議員を通して今の演劇事情を議会で発言し問題を提議してもらった。 今の岡山市の天神プラザには時間制限がある練習場が作られるもとになった。 また、国民文化祭岡山についての企画委員として開催の成功を思い参加して議論の場にいた。 国民文化祭は可もなく不可もなく終わった。 篠田監督が引退し、映画、テレビの仕事が舞い込んだが総て断った。篠田監督だから応援したのであってその他の仕事をすかる気がなかった。 そのころ、自律神経失調症を始めとして、高血圧、糖尿病、前立腺の肥大、白内障、黄斑変性症の薬を飲み点眼していた。特に自律神経により慢性的に頭痛があった。 歳をとると体が壊れていくのだと言う実感を持つことになった。 二男が結婚して双子の古賀生まれた。孫たちである。その子たちの記念に童話を書いたのだ。 多分に教条的になっているが頃の作日のンは意外なところで評価を受けることになる。 まず、ここに書き込むことにする。そのころの省三の心境を見る事が出来る。 星に願いを 1 むかし、むかし遠い国に、みなしごのラルという少年が住んでいました。 ラルのお父さんとお母さんは隣の国との戦争で亡くなったのでした。 ラルは羊飼いのお爺さんと暮らしていました。 ラルはお父さん、お母さんがいなくても淋しいと思ったことがありませんでした。 それは、優しいお爺さんがいたからでした。 毎日毎日、ラルはお爺さんと羊を追って草の茂る野原に出掛けたのです。 ある日、ラルが野原に出ると、そこには花がいっぱい咲いていました。 羊達は喜んでその中を走り回り、食べはじめました。 「花が可哀相だ」とラルは思いました。 そのことをお爺さんに言いました。 「ラルよ、花が美しく咲くのは、蜂や蝶々や鳥に食べられるためなんだよ。そして、羊に食べられふみにじられるために咲いているんだよ」 とお爺さんは言いました。 「美しい花はほんのひとときでほろびるものなんだよ。だけど、花はそれで終わることはないんだよ。毎年毎年この季節になれば、また、美しく花を咲かせるんだから、そのことは神様と約束をしているんだから・・・」 そう、お爺さんに言われて、ラルはそうなんだ毎年毎年花を咲かせるのはそのような神様との約束があるからなのかと思いました。 ラルはお爺さんの話を思い出しながら、堅いベッドに横になり一日の疲れをとるのでした。 「トントン、トントン」と戸をたたく音でラルは目をさましました。 ラルは起き上がり戸をあけると、ひとりの少女が立っていました。 「どなたですか、道を間違われたのですか」 とラルはその少女に声をかけました。 「いいえ、星を見にきたのです。この家は丘の上にあるでしょう、だから、星に手が届くのでないかと思って」少女はやわらかな声で言いました。 「星を・・・」 「はい・・・一緒にどうですか」 「ぼくとですか・・・。こんなに夜遅くでは恐くありませんか」 「いいえ、星があんなに輝いているのですもの。・・・あなたの、お父さまお母さまもあの星の一つ一つなのですよ」 「ええ、あの星がお父さんお母さんなのですか」 「ええ、そうよ」 「お爺さんは、星は花の精だと言っていましたよ」 「いいえ、あの星は、戦争でなくなった人の、平和へのともしびなのですわ」 「平和への燈・・・」 「そう、辛いとき、悲しいとき、淋しいとき、苦しいとき、じっと見守ってくれているのですわ」 「それで、君はあの星をどうしようと・・・」 「ええ、もっと高いところから星を見つめて祈るのですわ、淋しい事もあるけれど、このように元気でいますとみてもらうのですわ」 「君のお父さんお母さんは・・・」 「この前の戦争で・・・」 「ぼくの、お父さんやお母さんも・・・」 「さあ、ラルもっと上に登って星をさがしましょう」 ラルはベッドより起き上がろうとしました。 その時、 「ラル、行ってはならん」 お爺さんの大きな声がしました。 「星は、辛いとき、悲しいとき、淋しいとき、苦しいとき、以外に見るものではないんだょ」 とお爺さんは続けて言いました。 「幸せなときには見てはいけないの」 ラルはお爺さんに問いました。 「そうじゃ」 「だったら、この少女は・・・」 と言って、戸口を見ると少女はいなくなっていました。 「ラル、今日、花が可愛そうじゃと言ったろう、だから、ラルの優しさに花の精が人間となって、ラルに恩返しにきたのじゃろう」 お爺さんの声は風の音のように消えました。 次の日、戸口の外にはたくさんの花びらが落ちていました。 ラルは星を眺めることもなくすくすくと育ちました だけど、少しだけ星を見上げることがありました。 2 ラルが大きくなって羊の毛を荷馬車に乗せて村まで売りに行った時でした。二頭立ての真っ赤な馬車が通り過ぎていくのに出会いました。窓に一人の少女が窓枠に凭れてラルの方を見ていたのです。目があってラルは何か悪いことをしているような思いがしてそらしました。少女は寂しそうな目をしていたのです。 「おかわいそうにのう、王様のお父さんがなくなられ後を追う様にお母さんも亡くなられて・・・」 村人はそんな言葉を地面に落とし膝を折って合掌しました。 ラルは少女がお姫様であることを知りました。あの寂しそうな目は両親と別れたからなのだと言うことが分かったのです。 ラルは帰っておじいさんに話しました。 「人には定めというものがあって未来が決まっておるのじゃ。これは産まれてくるときに神様と約束をしていることで幾ら変えようとしても変えられないものなのじゃ」 と言いました。 「僕はこの山で一生羊飼いをして暮らしたい」 ラルはそう言いました。 「それがお前の希望じゃが、さてそのようになるかどうかはもう決まっとる。人はその決まっている通り生きていくのじゃが、それに流されてはいかん、流れるのじゃ」 「流れる・・・」 「そうじゃ、流されると流れるは大きな違いがある、流されることはたやすい生き方、流れることは勇気のいる事じゃ。いずれラルにも分かると時がくるじゃろう」 ラルは羊を連れて季節季節でところを変えて山を渡りました。ラルは少女の事が忘れなれなくなっていました。 「あの方がどうか幸せになりますように」と満点の星空に祈りました。おじいさんに幸せな時には星を見ないように言われていたのですが、このときには自然に祈っていました。 「ラル、私は病気なの。もう長くは生きておられないわ。馬車からラルを見たとき何とりりしくすがすがしいのかと思ったわ。たったひとときなのにラルのことが忘れられなくなってしまったの。ラルの綺麗に澄んだ瞳を思い出すと死ぬのがとても辛いわ。病気で重たい体を引きずるようにして何度出会った場所へ行ったかしら。もう一度ラルに会って見たいと思わない日はないの」 そんな夢をラルは見たのです。 次の日ラルは出会いの場所に出かけました。人混みの中を探して歩きました。会うことは出来ませんでした。次の日もまた次の日もラルは村に出かけたのでした。 「ラル、どうしたのじゃ、羊がお腹を減らして泣いておるのがわからんのか」 おじいさんに言われてもラルの耳には届きませんでした。 「おかわいそうに、あのラッパはお姫様が亡くなられたの知らせじゃ」 村人が涙を流して言っているのをラルは聞きました。 村は静まりかえっていました。 「ラル、会えたわ、そんな悲しい顔をしないで。私はラルに会うために産まれてきたの。会えたのですもの満足よ」 少女はあのときの寂しそうな目でなくきらきらと輝く瞳をして言いました。 ラルの心の中にははっきりと少女が生きていました。そのことをおじいさんに言いました。 「ラル、人は亡くっても魂はいつまでも生き続けるものじゃ。その人はラルの側でいつも見守っていてくれるじゃろう」 おじいさんはそう言って羊の後を追いました。 ラルの目からとめどなく涙が流れていました。 その夜、ラルは一晩中星を眺めていました。 3 草原は柔らかな日差しが降って、今まで眠っていた草や花が目を覚ましたように一面に咲き誇っていました。遠くの山はまだ雪を かぶっていました。 ラルは革の大きなつばの帽子をかぶり、羊の毛で編んだシャツを着ていました。羊を連れてそこへやって来ました。羊は喜んで走り回り草を食べてはじめました。 ラルは岩を背にして座りしばらく羊たちを見詰めていました。そして、ポケットからおじいさんにもらった手のひらくらいの本を取り出しました。ラルの目は輝いて夢中で読み始めました。本にはこの地方の色々な仕来りやお話が載っていたのでした。 春の暖かな日差しはラルを眠りへと誘いました。ラルはすっかりその誘いに乗ってしまいました。 「ラル、私はサラシャというの。今は空の上のとても遠い遠い楽園にいるの。そこは一年中春のような季節で花が一杯咲いているわ。戦争もないし平和なの。みんな笑顔で生活しているわ。お父様もお母様も居るわ。何時もラルのことを話すの。ラルと初めて会った村の事、馬車で見たラルの顔、目があって目をそらせたラルの可愛いしぐさなど、真剣に話すの。 私がラルと会えるのはラルが眠っている間だけなの。神様が何か欲しいものがあるか、一つだけ叶えてやろうというのでラルに会うことだというと夢の中だけという約束でこうして会うことが出来るように許してくださったのです。 ラルが爽やかな息をすると私もする。あくびをすると私もする。眠ると私も眠る。起きて羊を追うと一緒に私も追うの。あの頃の寂しい私ではないのよ。溌剌としている私を見せてあげたいわ。 ラルのお父さんとお母さんにも会ったわ。ラルの小さなころのこと、良く風邪をひいていた病弱な子だったことも。お父さんお母さんもラルの事を見守っているわ。ラルがどんな子になるだろうと心配をしているの。神様に尋ねてもそれは教えてくれないの、そう言う決まりなの。私もラルがどんな大人になるのか楽しみなの。 ラルの夢の中でこうして話すことはとても疲れるの。いいえ、病気ではないの、このことも神様との約束なの・・・」 ラルは目が覚めました。たわいない夢だと笑ってはおられない気がしました。そのことをおじいさんに言いました。 「忘れるのじゃ。忘れなくてはならんのじゃ。夢と現実はそれはそれは遠い遠いへだりのあるものじゃ。わしの様に歳を取るとその隔たりはもっと遠く感じられる。人が生きると言うことは一瞬のことなのじゃがその一瞬はとても長いことなのかもしれん。人に言ってはならんぞ、そのことを・・・。気が触れたと相手にしてくれなくなるぞ」 おじいさんは今までに見せたことのない怖い顔で言いました。 ラルは夢だとあきられることは出来ませんでした。サラシャの事を思いました。幸せなら何処にいてもいい、その幸せを祈ろうと思いました。 「ラル、ラルは本当に素直な子なのですね。隠し事が出来ない正直な子なのですね。私が夢で会えると言ったことは誰にも話してはいけないと言わなかったのが悪かったのね。 もう、夢の中で会うことも出来なくなるわ。世界が違うの、ラルの生きる世界を迷わす事は出来ないの。これは約束なの、ゆるしてくださった神様との・・・。もう夢でも会えなくなってしまったの、元気でいつまでもいつまでも生きてね、私のぶんまで。さようなら・・・。」 ラルは目を覚ましました。そして、外に飛び出しました。満点の夜空を見上げました。少し大きく輝いた流れ星が山の向こうに消えるのをラルは見ました。ラルの頬に一筋の涙が流れていました。 4 ラルは羊を草原に連れて行くと一人で空と山が重なる一番高い一点を眺める事が多くなったのです。 あの夜からサラシャは夢の中に現れなくなっていた。ラルはサラシャがどうしているのだろうと思いました。お父さんやお母さんにあったと言っていたが本当だろうかと思いました。 ラルの心の中にはまだサラシャのことが大きな場所をしめていたのです。もう会えないと思うと寂しくてしょうがなく、まぶたを閉じて思い出そうとしました。なぜか思い出せなかったのです。 そんな日が何日も何日も続いたのです。風の日も雨の日も嵐の日もラルは見詰め続けていました。 朝から晴れたいい天気だったのです。突然見詰めていた一点が黒く染まり空を覆っいました。稲光が光り雷が鳴りだんだんと近づいてきました。羊たちは驚いてみんな集まってうずくまっていました。光がラルの側に落ちたのです。ラルは吹き飛ばされてしまいました。 ラルは空を飛んでいましてた。草原はいつもの輝きで羊が無邪気に遊んでいるのが見えました。それから真っ黒の雲の中に入ったのです。少しの間であったようにも感じるが長いようにも感じました。時間の経過ははかることは出来なかったのです。 雲を突き抜けたのか目の前に今まで見たことのない風景が広がりました。色々の花が咲き乱れ見たことのない鳥たちが飛んでいました。空には雲一つなかったのです。 「ラル、来ては駄目、来ては駄目なのよ」 どこからかサラシャの声がしました。だがそう言われてもラルの意志ではどうにも出来なかったのです。 「いつもいつもサラシャの事を考えてきみの居る一番近いところを眺めていたのだよ」 「私はいつもラルの側にいるわ。ラルには私が見えないけれど私はよく見えるの。悲しい顔のラルを見るのは辛いは、笑顔のラルが好きよ。・・・まだラルはこの世界にくる事は出来ないの。もっともっとラルの世界で笑ったり泣いたり沢山のことをしなくては駄目なの。 ラル、初めがあれば必ず終わりがあるの。ラルを見守るのもあと僅かなの。これは神様との約束なの。ラルは私の事を忘れて、もっと勉強をして立派な人になるのよ。ラルが人を愛し愛されて子供達に囲まれ、みんなを幸せにして初めてここに来られるの。 私はラルに出会えただけで満足なの。それが私の定めであったから。 もう、ラルの邪魔はしないは・・・忘れる、だから忘れて・・・。帰るのよ、早く帰るのよ。帰りたいと思ってそうすれば帰れるから・・・」 「そんなの無理だよ。サラシャにあいたいから・・・」 「それも時が経つと忘れられるわ」 「だめだ、出来ない」 「今、私はさようならとしか言えないのよ。分かって・・・帰りたいと思ってそうすれば帰れるから・・・」 「・・・」 ラルはおじいさんのことを思い出したのです。 「ラル、どうしたのじゃ」 突然ラルはおじいさんの声を聞いたのです。 ラルはあたりを見渡しました。嵐の後は何も残っていませんでした。空は何処までも青く澄んでいて、羊たちも草を食べていました。何処を探してもおじいさんは見つかりませんでした。 そのことをおじいさんに言いました。 「人は何かを思い詰めると幻を見るものじゃ。山と空の間になにか忘れているものがある様な思いを感じるものじゃ。そこに何かあるように思えるから人はいきられるのかもしれん。 人にとって一番大切なことは今を懸命に生きるという事じゃ。なくなった人もそう願っておる。ラルが元気でないとその人が悲しむぞ。その人を幸せにするのはラルが幸せになることなのじゃ」 おじいさんはそう言ってパイプの掃除を始めました。 ラルはおじいさんの穏やかな顔を見ていました。それは幸せそうな顔でした。 ラルはそれから空と山が重なる一番高いところを眺めなくなりました。 サラシャの事は時に思い出していました。 5 ある年の冬のことでした・ 大きな風と、はげしい雨が降ったのです。 ラルは小屋で震えていました。羊たちの事が気になっていたのですが、外には出ることが出来なかったのです。 ラルは一睡もしなくて祈っていました。 「嵐はラルに試練を与え、ラルがどのように立ち向かってくるかを試そうとしているのじゃ。何が起こっても乗り越えなくてはならんのじゃ。人間にはその力があたえられておる」 おじいさんはそう言いました。 東の空が明るくなるころには風も雨も小さくなっていました。 ラルが羊小屋に行くと羊たちは寄り添うようにして固まっていました。 よく見ると羊たちは全部死んでいました。 それを見たラルは腰が抜けたようにその場に崩れおちました。 ラルは空を見上げました。 羊たちが次々と空に登って消えていくのが見えました。 ラルの涙があふれる目にはそのように映ったのです。 「ラル、今日は羊たちの葬式じゃ」 おじいさんがラルの後ろに立って言いました。おじいさんは歯を食いしばっていました。 ラルとおじいさんはもう山に帰ってくることはありませんでした。 その後、ラルがどのように生きたかは分かりませんでした。 おわり この童話は二人の孫たちに生きる意味と幸せ、それを勝ち取ることに大切なものは何かを伝えるものだった。 秋の空1へ続く…。 ジャンル別一覧
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